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付録:装束以外の有職故実

畳の縁(へり)

畳の縁につけられている生地を見ると、そこに座る人の身分がわかります。さまざまな図像を見るときに興味深いものです。

 繧繝縁(うんげんべり・うげんべり)は最も格の高い畳縁で、天皇・三宮(皇后・皇太后・太皇太后)・上皇が用いました。親王や高僧、摂関や将軍などの臣下でも、「准后」(准三宮)という称号が与えられると三宮扱いになるため、繧繝縁を用いることが出来ました。また神仏像などでも繧繝縁を用いています。雛人形の親王雛は繧繝縁の厚畳に座っています。「源氏物語絵巻」でも匂宮や女三の宮が座している畳は繧繝縁で、臣下が座しているのが高麗縁と描き分けられています。

 高麗縁(こうらいべり)は白と黒の織物で、親王・摂関・大臣は大紋高麗縁、公卿は小紋高麗縁です。清少納言の枕草子では盛んに「青畳と高麗縁の取り合わせが美しい」と賞賛されています。現在では神社仏閣の座敷や茶室の床の間などで大紋高麗縁を見ることができます。小紋高麗縁は逆に珍しくなり、京都御所など限られた場所でしか見かけることがありません。実際には直線ラインで構成された小紋のほうが制作が難しいそうです。

 四位五位の殿上人は紫縁です。六位以下は黄縁、無位の者は縁なしとされていました。
現在の京都御所では、紫縁を敷くべき位置には、赤縁を用いています。これは紫が変容して赤を用いたもので、「紅絹(もみ)縁」「緋曽代絹縁」とも呼ばれます。

 京都御所の表参内門である「宜秋門」を入り、御車寄から御殿にあがると、東に「虎の間」(公卿の間)、次に「鶴の間」(殿上の間)、さらに西に「桜の間」(諸大夫の間)と各部屋が並んでいます。「虎の間」「鶴の間」には小紋高麗縁、「桜の間」には赤縁の畳が敷かれています。

繧繝縁 大紋高麗縁 小紋高麗縁
(通称:九條紋)
紫縁 黄縁 縁なし
天皇・三后・上皇 親王・摂関・大臣 公卿 殿上人 地下 無位

※繧繝縁が天皇など限られた身分の人だけが用いることができるとし、他の使用を禁じたのはいつの時代からか判っていません。少なくとも室町時代には明確になっていたようです。

『海人藻芥』 恵命院宣守 (応永二十七(1420)年)

 畳之事
 帝王院繧繝縁也、神仏前半畳用繧繝縁、此外更不可用者也、
 大紋高麗縁親王大臣用之、以下更不可用、大臣以下公卿小紋ノ高麗縁也、
 僧中者僧正以下同、有職非職紫縁也、六位侍黄縁ナリ、
 社寺諸社三綱等皆用黄縁云々、四位五位雲客用紫縁也


けれども平安時代では繧繝縁の畳を公卿の婚礼などでも用いた記録があります。有職故実は鎌倉後期頃から厳しいルールが生まれるようになりましたので、平安時代はあまり厳しくなかったのかもしれません。ごく限られた工房でしか錦の制作が出来なかった平安時代は、あえて禁制を設ける必要がなかったのかもしれません。高麗縁の大紋・小紋も、平安時代にはあまり区別されていなかったようです。

茵(しとね)

現在の座布団のようなものです。京都御所の天皇の座所「昼御座(ひのおまし)」は、2畳の繧繝縁の厚畳の中央にこれを敷いています。
 周囲は大和錦、「鏡」と呼ばれる中央部分は、小葵文様の白綾が用いられることが多いようです。
単なる座布団のように見えますが、畳表を五枚重ね、真綿のクッションを入れて生地でくるんだものです。そうしたことから畳の一種と言えるでしょう。








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