HOME綺陽堂>平安イラストを描かれる方へ

素材を使って平安装束イラストを描かれる方へ

(装束の決まり事基礎知識)


お節介とは思いますが、装束の一応の決まりを守って素材を利用されますと、
きちんとしたイラストになると思います。
これは何も「時代考証を守りましょう」と申し上げているのではありません。
イラストですから、自由な表現も面白いでしょう。
でも、1000年の間に形作られてきた装束の決まり事は、
やはり美意識の上でも完成を見ています。
この決まり事を尊重すると、華やかであるけれどもド派手ではない、本当の有職の
美しさをイラストでも再現できるのではないかと考えまして・・・。
(テレビの衣装では、狩衣の生地で指貫を作るような、トンでもないことをよく目にします。)
 なお、装束それぞれの名称や着用のTPO、色彩の決まり事などについては、
本館「装束の知識と着方」をご参照いただけますと幸いです。

男性装束

 束帯(最高礼装)

 
色は漆黒です。文官は後ろの纓(えい)が垂れ下がり、武官は巻き上げました。また武官は
耳の前に馬の毛で作った「おいかけ」というものを付けます。

袍(ほう・上着) 
家々でも文様は様々に用いましたが、一般的なのは次のようなものです。
色は皇族と一〜四位が黒、五位が赤でした。関白道長の時代はまだ紫なども使っていたかもしれません。
六位以下は色が縹(はなだ・濃いブルー)で、文様は許されませんでした。

輪無唐草 轡唐草 丁子唐草 雲鶴(親王専用)

下襲(したがさね)、裾(きょ)
袍の下に着るもので、裾は後ろに長く引きます。色は冬は白地に白の文様、
夏は蘇芳(えんじ色のような色)です。

浮線綾(冬) 遠菱(夏)

単(ひとえ)
下襲の下に着る「単」は平安中期には肌着でした。その下に白い小袖を着るようになったのは
平安末期、院政から源平時代のこととされています。
色は赤。衣冠の場合は様々色が許されていたようですが、束帯の場合は赤です。

繁菱

表袴(うえのはかま)
片足で反物二幅の細身の(と言っても現代から見るとダボダボですが)ズボンです。色は白。

か、に、霰(あられ) 浮線綾

 衣冠(宿直装束、のちに一般宮中装束)

  文官、武官問わず、垂纓(すいえい)です。

  束帯と同じです。

  束帯と同じですが、赤以外の色も用いられました。茶色や黄色など。

指貫(さしぬき)  
片足反物四幅ある、ダボタボの袴です。下をくくってもんぺのように着用しました。色については
平安時代はかなり自由だったようです。のちに年齢で紫>青>水色>白、と区別するように
なりました。年齢が若いほど濃い色を使うのは、あらゆる装束に共通です。

二陪織物(若年者) 八藤丸 鳥襷 雲立涌(親王)

 直衣(上級貴族の日常着)

冠、烏帽子  特別な天皇の許しがあれば冠を着けて宮中に参内できましたが、一般的には烏帽子です。

  
平安時代はわりと自由なようでしたが、宮中にも着ていくようになると決まりが出来てきました。
色は冬は白、夏は二藍(ふたあい)です。二藍は年齢によってピンクに近い色から藍色に近い色まで、
さまざまでした。また冬の直衣は裏地の色と組み合わせて「重ね色目」を楽しみました。

浮線綾(冬) 三重襷(夏)

指貫  衣冠と同じです。

 狩衣(貴族一般の平常着)

元々スポーツ服であった狩衣は、もっとも色や文様が自由な装束です。頭には烏帽子、狩衣と指貫を着用
しました。狩衣については素材集の「丸紋」「狩衣」を使えばまず問題ありません。指貫は直衣と同様です。ただし
狩衣の指貫は平安時代から室町時代には白の麻布製も用いられていたようです。

若年者の文配置 年齢に応じた文配置

文様のサイズの鉄則

すべての装束の文に言えることですが、同じ文様でも、若いほど「小さく多く」、加齢に従って「大きく少なく」
するのが鉄則です。展覧会で装束を見るとき、文様のサイズから着用者のおおよその年齢が判ります。



女性装束

女性の装束は最高礼装の「五衣(いつつぎぬ)・唐衣・裳」から、少しずつ着物を減らすことでTPOをつけて
います。イラストの場合、この「五衣・唐衣・裳」(いわゆる十二単)と、ここから唐衣と裳を省いた日常着である
「袿袴(うちきばかま)」をおさえておけば十分でしょう。女性装束は男性と比べて色も文様もかなり自由です。
このあたり、会社に着ていく男性のスーツと女性のファッションとの相違と同じ感覚だったのでしょうね。
 ですから、ここでは「五衣・唐衣・裳」のしかも一例についてのみご紹介します。また一部省略している部分もあります。

唐衣(からぎぬ) 
礼装時に着用するチョッキのように腰までの長さの短い上着です。最高の生地を使いました。 
素材集の「二陪織物(ふたえおりもの)」を使えばまず間違いありません。代表的なものは・・・

亀甲地紋向蝶丸 入子菱地紋八藤丸

表着(うわぎ) 
裾の長い着物の一番上に着るものです。やはり豪華な織物が用いられました。二陪織物も使えますが、
他にあえてあげるとすれば・・・

唐花丸 唐花唐草 唐花唐草 宝相華

五衣
きまりがあるわけではありませんが、色は「襲色目(かさねいろめ)」を楽しみました。「装束の知識と着方」を
ご参照下さい。さまざまな文様が使われましたが、代表的なものを・・・。

藤立涌 松立涌

単(ひとえ)
男性同様、摂関時代は肌着でした。この頃にはいろいろな文様や色がありました。
文様は幸い菱にすれば間違いないと思います(平安時代と言うことでは、幸菱は、やや、あやしい
ところなのですが、「単=幸菱」というイメージが確立されてしまっていますので・・・
色は赤、萌黄(黄緑)、黄色、桜色、濃色(紫)、青(濃いうぐいす色)、白などです。

幸菱 繁菱 唐花菱


一般に未婚者は濃色(こきいろ・紫からエンジ色)、既婚者は赤(緋色)と言われていますが、時代時代で
さまざまな定めがあったようで、一概には言えません。ごく子供の頃だけ濃色にした時代もありましたし、
現代の宮中では既婚者でも第一子出産までは濃色ということになっているようです。
 ですからイラストでは、ごく若い人は濃色、それ以外は赤、としておくことをオススメします。なお、喪中は
柑子色(こうじいろ・ミカン色)になり、出産時には白を着用しました。


以上、余計なことを書き連ねましたが、ご参考になれば幸いです。素敵な平安イラストをお描きになって
くださいませ。

有職を守ったイラストの一例(素材はすべて綺陽堂)

夏の直衣 裳唐衣(十二単)

(C)綾麿  転載を禁じます

可愛いイラストも有職のきまりを守ると
上品で美しく仕上がります!


殿上に上がる公卿の子息の
「童直衣」姿です。

単は赤の繁菱

直衣の袍は二藍の三重襷文
夏の料なので裏地無しの仕立

指貫は若年の料で
二陪織物紫亀甲地文に白臥蝶丸文

加冠前なので露頂

子供用の檜扇「横目扇」を持つ


縫い目の重なり具合、裾の「襴」部分の布目を
横に使っている点などの細かい配慮も完成度を
高めるのに役立っています。



表紙に戻る