装束を自作するということはとても難しいことです。縫製には装束の構造を熟知していなければなりません。ちょっと見の記憶で作ると、とんでもない装束になってしまいます。また生地も入手し難く、安い生地で作るとデレデレのみすぼらしい襤褸(ぼろ)になってしまいます。かと言って装束向きの生地を購入すると高価ですから、結局装束店できちんと作っていただいた方が安く正式な物が作れます。ですから私は装束は買うものとはっきり申し上げます。
ですが、装束を「作る」こと自体に喜びを見いだす方もまたおいでであることも事実のようです。多くの自作ファンの方からお問い合わせのメールをいただきました。そこでここでは「許容範囲ぎりぎりの装束モドキ」の自作についてのアドバイスをしたいと思います。本来の装束ではあり得ない部分、省略した部分も多いですから、これで装束がわかった、本物が自作できたとは、決して思わないようにして下さい。正式な場所に着用していくようなものではありません。あくまでも学芸会用です。
もとより私は縫製の専門家ではありません。細かい部分は省略いたしますので、お作りになる方が適宜判断なさって下さい。
一番難しいのが「袍(ほう)」です。狩衣は袍に比べればとても楽なので、袍についてわかっていれば、狩衣は比較的容易でしょう。
袍の分解図です。 左右の袖と、胴体部分、そして裾を取り巻く「襴(らん)」からなっています。胴体部分の前は打ち合わせの重なりがありますが、この図では省略してあります。 一般的な文官の袍「縫腋袍」はサイドを縫い合わせてあります。袖も下のごく一部分以外は胴に縫いつけてあります。ご覧の通り、袍は前部分に「たくり上げ」がありますから、袖をしっかり縫いつけてしまうと前後の整合性が取れない、どうなってしまうのか?と言う疑問が出てくるでしょう。確かに「縫腋袍」はこの点かなり無理があるもので、奈良時代から平安初期までの朝服では、このあたりはもっと着用しやすくなっていました。こうした無理があるからこそ、「衣紋道」と呼ばれるような着付けの専門技術が発達したとも言えるでしょう。 |
袍の各パーツ図です。 上の分解図では省略した前の打ち合わせの重なり部分「登(のぼり)」もありますので、理解しやすいと思います。後ろは重なりが無く縫い合わせです。 首の出る穴は全体の中で上(つまり後ろ側)に寄っていて中心ではありません。これは前だけに「たくり上げ」があるため、前の方が後ろよりも長いと言うことです。 袖は本来、外広がりの台形ですが、これは自作の場合は意識しなくて良いでしょう。 各袋はその名通りに袋状に縫い、背中の腰部分に縫いつけて下にぶら下げます。この各袋は本来、胴体部分に連続しているもので、たとえて言えばズボンのポケットを表に引きずり出したような状態になっているのが、この格袋です。衣冠として着用する場合は表に出し、束帯にするときはこれを中に入れ(ポケットで言えば通常の状態にし)ます。しかし自作の場合は束帯にすることはあり得ないと思いますので、外付けの見かけだけにして構わないでしょう。ならば不要かと思いがちですが、これがないと背中がツルンとして見栄えが悪くなりますので必ず付けて下さい。 各袋の左右から出る小紐と、メインの帯である「くけ紐」は図では省略してあります。 |
打ち合わせのあるのが前です | 首上が後ろにあるのは前の「たくり上げ」のためです |
首上(くびかみ)は袍も狩衣も同じです。 首上の厚みは7o、高さは1.5p程度です。 芯には非常に堅いものを入れて下さい。 「とんぼ」の受緒と掛緒が共布で細い紐を作って それで輪とお団子を作って首上に縫いつけます。 |
とんぼの玉の作り方は 下を参照して下さい。 |
袍と比較すれば非常に容易に作ることが出来るでしょう。
袖がほとんど独立していますので、前の「たくり上げ」による袖のたわみは発生しません。
注意すべきは肩の部分(首上の回り)裏に芯となる裏地を必ず付けることです。狩衣で肩がふにゃふにゃしていると、非常に見栄えが悪くなります。
袖と胴の前身が独立しているので「たくり上げ」問題なし | 袖は後ろでわずか24p縫われているだけです |
裾は畳むと33cm、広げると64cm 反物で言うと8幅です。想像を超えた太さです。 自作の指貫を見ると、たいてい細すぎて「太めのもんぺ」と 言う感じになっています。非常に見栄えが悪くなります。 平安時代のゆったりとした雰囲気を出すには、この指貫の太さが どうしても必要なのです。 ここで布を惜しんではいけません。 | |
室町時代から装束にお金を掛けられなくなった公家は、万事 省略するようになりました。また暑さ、汗対策と言うこともあって 用いられたのが、この「大帷(おおかたびら)」です。 これは小袖の襟まわりと袖口だけに単の布を縫いつけたもので、 この上に袍を着ると襟や袖口から単の布が見えて、あたかも小袖と 単を着ているように見せたものです。これを「人形仕立て」と呼びます。 さらに襟に下襲の布をかぶせて下襲をも着ているように見せかけたもの もあります。大帷は「袖単」とも呼ばれました。 胴部分の布は冬は白、夏は赤です。これは夏の袍が透けるため、 単を全体に着ているように見せかけるためです。 自作の場合はこの室町時代以来の便法を応用するのも手でしょう。 |
首上を止めるのには、とんぼ玉を輪っかにした受け緒に引っかけます。この紐は生地と共布で細い紐を作るのが本当ですが、自作の場合は、やむを得ず同系色の組み紐などを使うのも仕方がないでしょう。化繊よりも綿の組み紐のほうが変なツヤがないので望ましいと思います。
受け緒はねじって輪をつくるだけですが、とんぼ玉は「しゃか結び」という結び方で作ります。下に図示します。簡単ですからぜひ本格的にして下さい。
「しゃか結びは」は「釈迦結び」です。仏像のお釈迦様の髪型「らほつ」に似ているからです。
1.輪を作り、輪の中心を谷にして手前に折る | 2.右の紐を図の通り輪にくぐらせる。崩れやすいので机に置いて・・・ | |||
3.さらに図の通り輪にくぐらせる | 4,中央を押さえて崩れないようにしつつ、上下に引く | 5.ゆるみを順送りに 引き締め、完成 6.根本をねじって糸で固定 |
装束の生地は「有職文様」の入った特殊な物が用いられ、なかなか一般には入手できません。
生地屋さんで良いものが入手できれば最高ですが、人形店(東京なら浅草橋・大阪なら松屋町)で木目込人形材料を探すのも手です。有職文様布で紋の大きい物が選べるでしょう。化繊であればそうめちゃくちゃに高価でもありません。ただし装束店で出来合いの化繊狩衣を購入するよりはずっと高く付くのが実状です。ともあれブロードなどのてれてれした布は装束を着用したときよれよれになって「貧乏神」のようになってしまいます。厚め・固めの布を用いるようにして下さい。
狩衣の袖括りの紐に安っぽいリボンなどを用いないで下さい。東急ハンズなどで売っている「真田ひも」を用いると本格的になります。真田ひもはそれほど高価ではありません。
指貫の裾に通すくくり紐は、白の組み紐で構わないでしょう。
上記の人形用有職文生地で小物を作りますと、日常生活に雅やかさを呼び込みます。
簡単に作れるものですから、どうぞ皆さんもお楽しみください。
小物入れ 花菱地紋に八藤丸紋 ティッシュや名刺入れ、 お茶席に呼ばれたときの懐紙入れなどに |
小物入れ 輪繋ぎに菊菱 当サイトアクセス 10万記念品 |
ネクタイ 雲取雲立涌閑院菊と 菊浮線文様 パーティーなどに |