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香席の実際

香席とは、茶道の茶会と同様に考えてください。そこでは作法にのっとって香がたかれ、客(連衆)たちは香を聞きます。さまざまな仕方がありますが、一般的なのは「組香」と呼ばれる、何種類かの香を聞いて、その出てきた順番を当てる、「茶歌舞伎」や「利き酒」のようなものが主流です。そこにはゲーム性があり、聞く側も真剣になります。
組香には季節に応じたテーマが設定され、それにちなんだ香銘の香木が使われ、また「証歌」と呼ばれるテーマに沿った和歌が添えられます。

組香とは

御家流では「組香式」と呼ばれる一覧表で、組香を表わします。一例を示します。「若紫香」(桂雪会・熊坂久美子先生組)です。

(テーマ)若紫香

証歌:夕まぐれ ほのかに花の色を見て けさはかすみの 立ちぞわずらう

この組香は、尼君と若紫が2包みずつ、源氏が1包み、計5包み用意されてスタートします。
まず尼君と若紫は「試香」として、要素名を明らかにして客に聞いてもらいます。ここでこの2種類の香気を感じ覚えてもらうのです。
5包みの内2包みを試香で使ってしまったので、残るは3包み(各要素1包み)です。これをうちまぜて「本香」をたき、客は試香の記憶を頼りに順番を当てます。上手にたかないと、誰も正解(皆中)しませんので、たく側(香元)は当ててもらえるようにたくのです。香元と客の対決ではないのです。
大切なのは、どういう意味でこの組香が組まれたのかを感じ取ることです。
若紫を育てる影の立場の尼君を「ほのか」、まだ少女の若紫を「蝶の夢」、若き貴公子の源氏を「緑」で表現し、またその立場にふさわしい香気を持つ香木を充てています。
香気と香銘で各人をイメージすることで、源氏物語の「若紫」の巻を想い描き、証歌の意味を深く味わうことで、さらに印象を深める。これが組香の目的なのです。
単なる当てもの競争ではありません。
※(要素名)はその組香のテーマに沿って命名されます。(香銘)は使用する香木の名称です。(木所)は香木の種類を記号で示します。この組香では、尼君は「羅国」、若紫は「佐曾羅」、源氏は「伽羅」を使用しています。


香道具のいろいろ

徳川美術館「かおりの文化展」展示品図録より

松竹梅山水蒔絵香棚 十組盤のうち相撲香盤 菊唐草文螺鈿四種盤 和歌の浦蒔絵阿古陀香炉
香木を割る道具、火道具、
競競や採点のための道具
一式を収めた美しい蒔絵
の棚。
蹴鞠香、鷹狩香、吉野香
などの十種の競技のうち
の相撲香に用いる競技盤。
香の聞き当て成績により駒
を進める競馬香や、桜と紅
葉で競う名所香などの競技
道具。
アコダ型の火取香炉。
火をおこした炭団をこの
中の灰に埋め待機する
徳川美術館蔵 東京国立博物館蔵 徳川美術館蔵 個人蔵
蜀江蒔絵伽羅割道具 十種名香の香木類 菊折枝蒔絵十種香箱 菊折枝蒔絵伏籠・香炉
香木(この場合伽羅)を
木塊から小さく切り割る
ための小型の鑿や鋸類。
右から東大寺、八橋、
三吉野、中川。最大の
三吉野で64.5グラム。
香包、香盆、香炉、重香合、
火道具、銀葉盤、記録盤、
硯箱等一式を入れる香箱。
組み立て式の伏籠の上に
衣類を掛け、その中で香を
焚き、衣類に香気を移す。
徳川美術館蔵・国宝 徳川美術館 徳川美術館蔵 徳川美術館蔵
香席で用いる香道具
畳の上に「地敷」と呼ばれる縁のある布を敷き、その上に金色(裏は銀色)
の「打敷」を広げ、その上に道具を配置します。
左上が手記録盆と手記録。その下は聞き香炉一対。その下は本香の包み
中央上は試み香。その下は本香を載せる本香盤。そのすぐ下が試香盤。
右は上が銀葉を入れてある重香合。その下、香木を扱う道具類。
地敷縁の上にあるのは香筋建(きょうじたて)。中に道具が立ててある。

「記録」の一例(名称等はすべて架空のものです)

左が「記録」の一例です。上記の「若紫香」を例にしました。
本香の出(出た順番)は、一番右に縦書きしているように、源氏、尼君、若紫の順でした。
ここでは雅恒さんと美子さんが3回の本香をすべて聞き当てて、「皆」の下附(朱書きの成績)を受けています。貴子さんと紀子さんは1回だけ聞き当て、貞房さんは残念ながら聞き当てることはできませんでした。
「皆」が二人いますので、この場合は上席の雅恒さんが、この「記録」を頂戴することになります。各人の回答の要素名の右肩に朱色の線が書かれているのは聞き当てた印です。
下附は、このような成績を端的に表わしたものよりも、よりテーマに沿った優雅な表現が用いられることが多いのです。例えば「皆」なら「光」、「一」なら「雀の子」、無なら「柴垣」など。源氏物語「若紫の巻」の世界をより深く味わうものが考えられています。つまり「記録」は「成績表」ではなく、香席の雰囲気・余韻を楽しむための、よすがとするものなのです。


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