このページでは公家装束(男子)についての基本的知識をご紹介します。
装束と一口に言っても種類もさまざまで、その用途も決まっていますから、装束別に説明をしたいと思います。
なお今日、装束を着装する機会が一番多いのは神社の神職さんですが、当ページでは公家装束の観点からの
説明をしておりますので、必ずしも神職装束と合致しない点があることをご承知おきください。各名称部分をクリックして下さい。
束帯 | 最も正式な装束です。 |
衣冠 | 宮中に参内する一般的な装束です。 |
直衣 | 上級公卿の日常着で、冠を付けて参内することもありました。 |
狩衣 | 公家の一般日常装束です。時代が経るに従って公服化しました。 |
直垂 | 武士の装束で、今日は雅楽楽師が着用します。 |
その他 | その他、神事に用いられる装束類のご紹介です。 |
たとえてみれば・・・
これらの装束をあえて現代の衣生活にたとえてみますと、次のようになると思います。「参内」を「銀行など堅めの会社」に出勤することとします。
束帯 | モーニング、フロックなどの礼服 | 特殊な行事式典の時のみ着用する礼装 |
衣冠 | 上下揃いの背広、スーツにネクタイ | 最も一般的な出勤服 |
冠直衣 | 上下セパレートブレザーにネクタイ着用 | これで出勤が許されるケースもあるでしょう |
烏帽子直衣 | セパレートブレザーでノーネクタイ | ハイソなお洒落さんたちの普段着 |
狩衣 | ジャケット、ブルゾンなど | あくまでもカジュアルな遊び着。社長がこれなら社員もOK? |
直垂 | トレーナーなど | スポーツウエアながら、いつしかみんなの普段着に |
小袖姿(和服) | カラフルなTシャツ | 本来下着であるのに、今ではまったく一般的な衣服に |
このたとえで判ることは、「冠」はネクタイ着用、「烏帽子」はノーネクタイの雰囲気です。一般的にはネクタイで出勤が原則でしょう。そのように、冠無しでの参内はあり得ません。天皇は常時参内状態ですから、天皇の烏帽子姿はあり得ないのです。
本来は男子の通常服であったモーニングは今や完全に礼服。通常は背広です。これが束帯と衣冠の関係。直衣はちょっと見は背広に見えて実は違うブレザー、つまり「雑袍」で、一部の先進的エグゼクティブはこれで出勤することもあるでしょう。つまり勅許があれば参内できた「冠直衣」に匹敵します。
烏帽子直衣は一般的には普段着で、出勤姿ではないブレザーノーネクタイ姿。日常の遊び着でブレザーを着こなすのはかなりのお洒落者。つまり公卿階級です。狩衣はその名の通り元々はハンティングウエア、つまりスポーツウエアです。通常の出勤には使えませんが、社長がこれを着ているカジュアルな雰囲気の会社なら、社員の着用が許される場合も。これは宮中には着ていけない姿でも、上皇の元へは行ける、院参姿とも言えましょう。直垂はトレーナー。むかしの銀行員は日曜日でもこういう衣服は着ませんでしたが、今では気軽に皆さん着ていますね。直垂もいつの間にか公家が日常着に用いるようになったのです(室町時代以降)。今では、かつて下着であった小袖が色物となって「和服」の代表格です。
「前代の平服が次代の礼服」というのは古今東西の衣生活の流れ。時代と共に装束の決めごとは変化していったのです。
考証
装束の考証は1000年間の変容を考えますと難しいものです。
平安時代でも400年間に大きな変容がありましたし、公家文化も応仁の乱で壊滅的な打撃を受け、その後100年間ほどの空白期間の中で、さまざまな知識と技術が失われました。
江戸時代以降、平安時代に復古させる研究と運動があり、一部が古式に帰りました。また江戸時代末期天保の「御再興」でかなり平安形式にに戻ったのですが、どうしても江戸時代の事情に合わせた変容がなされて完全には復活しませんでした。
今日、宮中や神社界、そして演劇やイラストで目にする装束の殆どは江戸時代以降の形式です。
「有職故実」の本では、さまざまな決めごとを記載していますが、時代による変化を詳述しきれずに混在させているケースを多く目にします。ですから私たちが古い装束や時代衣装を見るとき、江戸期を基本とした有職故実だけでなく歴史的研究を背景にしなければいけません。鎌倉以前の装束の決めごとは不明なことも多いのです。
また、私的なことでは公家の家々で違う定めをしています。「重ね色目」の呼び名も家によりさまざまで、統一した約束があるわけではありません。一説のみに固執すべきではないでしょう。
衣更
各装束に共通することですが、夏服と冬服があり、これを切り替える衣更があります。
原則として冬服は袷仕立て、夏服は単仕立てです。
かつては、旧暦十月一日〜三月末までが冬服、四月一日〜九月末までが夏服でしたが、現在の宮中祭祀では、立冬・立夏(当日から)を衣更の日に定めています。公家や神職もおおむねこの制に従っていますが、神職の場合は所在地の気候に合わせて融通を利かせているようです。
着用すると暑い重ね着装束には、立冬立夏の衣更えは、とても実用的です。
特殊な用語
「名所(などころ)」というのは、部分の名称のこと、「物具(もののぐ)」というのは装束を構成するパーツのことです。