衣冠着方(衣紋方二人)|衣冠着方(衣紋方一人)|衣冠着方(単独)|狩衣着方|装束の畳み方
指貫・女袴の着方(写真)|袍の着方(写真)
ここでは基本的な装束の着方を解説します。ただし本来の衣紋は被着装者「御方」について、前後二人の着付け者「衣紋者」が着せるものです。それ以外の方法はあくまでも便宜的なものだとお考え下さい。正式な場所でこのような略式の着方をしますと必ず途中で乱れて、無用な恥をかくことになってしまいます。
また束帯の着方についてはここでは割愛しました。あまりにも複雑なことと、着る機会はまずないであろうという判断からです。後日掲載するかも知れません。
着る順序
着装の順序は(1)小袖(2)冠(3)単(4)指貫(5)袍の順番です。これを逐次解説します。
なお本文中の左右は被着装本人から見た左右です。
(1)小袖の着方
肌襦袢の上に白小袖(白衣)を着させます。これを白帯で結んで留めます。通常の着流しの着方と何ら変わりありません。
(2)冠の装着
まず冠を頭上に乗せ、掛緒の中央を持って後ろ「纓壺」の上に当てて、纓の元をくるんで巾子の前、簪の上に回します。掛緒を簪の下にしたり、簪に巻き込んだりするのは正式でなく意味のないことです。
掛緒は甲の上で左を下、右を上に交差させ(「装束の持具」図参照)、顎にまわして結びます。掛緒は正式には「紙捻(こびねり)」=こよりに呉粉を塗ったものを使います。この場合は顎下で結んで、端を一寸五分残して切ります。
結び方は「結び切り」(固結び)を正式としますが、本人から見て左に輪を作る九条家流「左片鉤」、右に輪を作る近衛家流「右片鉤」があります。「諸鉤」(蝶結び)は凶事に使用します。ただし衣冠の場合は紙捻でなく組み紐を使用することもありますが、これは吉事凶事を問わずに「諸鉤」にして胸に長く垂らします。
(3)単の着方
単は2巾の布で作られているため、身体よりも随分と大きくなっていますから、「衣紋襞」と呼ばれるタックを前後に作ってあげなければなりません。本来単は襟を着るたびに折り畳むものですが、現実には事前に折り畳んで縫われている物がほとんどですから、着装にあまり難しいところはありません。
後衣紋者が前身を肩越しに前に垂らし、後衣紋者が単を押さえて前衣紋者が単の右袖に小袖の右袖を入れ、続いて左袖も同様にします。このように「右先左後」が衣紋の鉄則です。
袖が通ったならば衣紋襞を前2箇所、後ろ2箇所に作ります。ズボンで言えば「ワンタック」が前後にあるようなものです。
衣紋襞の取り方 | 前後に作ります |
(4)指貫の着方
右左の順序に足を入れさせてはかせます。またも右左の順序で指貫の裾を繰り上げて、膝下・ふくら脛の上のくびれたところで括緒を締めて結びます。結ぶ際の注意点はだぶだぶの布を均一に脚周りにまんべんなくすること、本人の外側で結ぶことです。括緒は白と紫または紫一色の組み紐で諸鉤結びが本来ですが、お洒落として蜷結びにすることがあります。
次に前紐を結びます。前衣紋者は単の襟の合わせを整え、衣紋襞をとって左手で襟の交差点を押さえながら右手で前紐の中央(板状の部分)を持って高さを見計らいながら単に押し当てます。そして両手で前紐を後ろにまわして交差させ、前でも交差させて後衣紋者が後ろで諸鉤に結びます。この紐は後ろは単の後身下、前は指貫本体の下(単前身の上)で交差させます。つまり前紐が指貫の上を通ることはありません(下記の通り例外多数)。
次に後紐を結びます。前同様に後衣紋者が単の衣紋襞を作って単に押し当て、前に回して二度回し(前後とも交差する部分は指貫の下)、前衣紋者が前(指貫の上)で諸鉤に結びます。前後の紐ともにぎゅっときつく結ぶことが大切です。
注意点:
(イ)
近代の指貫は括緒がなく、裾に左右二本ずつ布紐をつけ、この紐を使って指貫の内側で裾をサスペンダーのように引っ張り上げて上部内側に付けてある輪に結ぶ「引上げ仕立て」が多くなっています。非常に簡便ですし括緒の余りが脚に絡まるようなこともないので活動的なために、最近ではほとんどこの方式のようです。ただし差袴(切袴)同様になってしまうので、被着装者の脚の長さに合わせて事前に結んでおく必要があります。指貫の裾は、前は足の甲に触れるくらい、後ろは踵が隠れるくらいが適度です。
(ロ)
上記の通りの方法では前後ともに紐が指貫の上で交差することはありません。紐が指貫の上に現れるのは最終的に後紐を前で結ぶ時のみです。一般の袴の結び方とはまったく異なることに注意して下さい。ただし神職さんなどは前を紐が通るとき、すべて指貫の上で交差させて上に裏返す方法をとっています。非常にしっかり結べるものですが、美しさの面では最終後紐のみに劣ります。このあたり、諸家で方法はまちまちのようです。この方法も簡便なため写真で紹介します。こちら
また前結びは諸鉤(蝶結び)ですが、下がる紐や輪が邪魔になる場合は下から上へ、紐に挟み込みますが本義ではありません。
(ハ)
近年の簡便な指貫では後紐が短く、前に回していきなり指貫の上で結ぶだけの物もあります。簡単ですが本来の物と比べると着崩れやすい欠点があります。
(ニ)
袍の込みを美しくするため、結びを諸鉤にせず平たくする結び方も用いられています。
このあたり、様々な方法が家々に伝わっていますので決定版はありません。
(5)袍の着方 (着装写真)
当然ながら一番のメインが袍の着方です。束帯と衣冠の大きな違いは背中(腰部)の「はこえ」を内側に折り込むか外に出すかです。衣冠の場合は外に出す(出したまま)ですので、束帯と比較すると着せ方も非常に簡便です。束帯の場合はこのはこえの押し込み方と石帯の関係が非常に面倒なのです。以下、衣冠の袍の着せ方です。
まず後衣紋者が袍を広げ、前衣紋者は右袖左袖の順に腕を通します。次に前衣紋者は前を整えて首上を合わせ、「とんぼ」を掛けます。さらに袍の下前・上前ともにたくり上げ、真ん中の縫い目を合わせて指貫が5〜6寸(20pほど)見える位置に整えます。合図を受けた後衣紋者は、「抱え紐」(袍と共布のくけ紐)で結びます。まず「はこえ」を上にはね上げ、くけ紐中央を押し当てて前に回します。前衣紋者は前で交差させて後ろに回します。後衣紋者はさらに交差させ前に回し、前衣紋者が諸鉤に結んで完成です。後衣紋者は、はね上げた「はこえ」を垂らし整えます。「くけ紐」が短い場合は前から回して後ろで交差、前に回して前で結ぶことになります。どちらにしても「抱え紐」が前の部分を通るときはへそ下一寸半「丹田」の位置であることが鉄則です。紐の結びは「衣紋結び」(まず1回結び、余った紐を最初に回した紐に引っかけてから諸鉤に結ぶ)にし、さらに諸鉤の輪の部分をもう一度結ぶとほどけません。
※最近のくけ紐(抱え紐)は短く、その場合は前からスタートして後ろで交差、前に回して結んでおしまいです。
仕上がりを美しくするには、ふところの下端になる「くけ紐」の位置は、首上から襴の下端のちょうど半分真ん中を目処とすると良いでしょう。
前衣紋者は袍の「込み」を行います。たくりあげて紐で結んだのですから、たるんだ状態になっています。これを中央・右・左の順に整えます。前衣紋者は首上を整え、胸部に繰り上げた下身・上身の縫い目を合わせます。たわみの左右を折って三角形を作り、この三角の頂点(つまり縫い目)を右手で持ち、左手を上から「くけ紐」に差し込んで引っ張り、そのすき間に右手で下から三角の頂点を「込み入れ」ます。左右がたわんでいるはずですから、これを右、左の順に込み入れて形を整えて「込み」は完了です。これをいい加減にやると着崩れますし見栄えも極端に悪くなるので最も注意しなければなりません。
ついで後衣紋者は「はこえ」の下左右に縫いつけられた小紐を前に回し、前衣紋者がこれを中心で結び切り(固結び)して前の「込み」の中にいれておきます。この「小紐」は最終的な整えとして用いるものです。
込む前の 概略図 |
三角形を作り 頂点を込み入れます |
「込み」の順序の概略です | 巾の調整は左右 で前に折り込み 抱え紐で止める |
「込み」を図で表現するのはとても難しくややこしいため、上記(1)〜(4)で正しいかどうか難しいところですが、一応の概略と考えて下さい。(1)は何もせずに前のたくり上げが垂れた状態。(2)はそれをつまみ三角に折るところ。(3)では「くけ帯」を左手で引っ張って隙間を作り、折った三角の部分を下から帯に差し込む「込み」。(4)は縫い目などを調整しながらきちんと「込んだ」状態です。
(6)袍の袖の取り流し
着方は以上で完了ですが、体裁を良くし活動的にするために袖を取り流します。これは後衣紋者が右袖・左袖の順に行います。
これは簡単に言えば袖を「折り目の線まで内側に折り返し、また折って端を袖端に合わせる」ことです。特に上部、手に近い部分を多めに折り返すことで、袖全体が八の字末広がりに美しくなります。そして袖に一筋の襞をつくります。
一応これが衣冠着装の概略です。
内側に折り込んで ボリューム感を出し、 手から一筋襞を作る |
折り目で袖を折込み、 手で押さえる これが取り流し |
特に注意すべきは次の点です。その他は相方が前後衣紋者の役割を一人で行います。
(1)冠の装着の準備
冠があると動作の邪魔になるため、先にはかぶらない方が良いでしょう。ただし冠を組み立て、準備だけはしておきます。すべての着付けが終わってから冠を付けるようにしますが、かがんだりすると着付けが乱れがちですので、立って取れる場所に置いておきます。
(2)単の着方と指貫の結び方
前の衣紋襞を作ってもらったら自分で押さえておき、相方に前紐を後ろに回してもらいます。自分で固定して相方に後ろに回ってもらい、交差させてしっかり押さえてもらい、自分で前交差をさせてさらに後ろに回して後ろで結んでもらいます。
後ろの衣紋襞は相方に作ってもらい、後ろから回されてきた後ろ紐を自分で前交差させて後ろに回します。相方は後交差さして前に送りますので、自分で押さえておき、相方が前に回って前で結びます。
(3)袍の着方
自分で袍を羽織り、右袖・左袖を通します。相方は前に回って整え「とんぼ」を掛け、上身・下身をたくり上げて後ろに回ります。たくり上げは自分で押さえておきます。相方が「くけ紐」を後ろから前に回しますのでこれを受け取り、自分でたくり上げの下で交差させ後ろに回します。相方はこれを後ろで受け取り、交差させて再び前に回します。自分でこれを保持している間に相方は前に回り、前で結びます。相方は「込み」を行い、小紐を結んで袖の取り流しを行います。
これはまさに「禁じ手」で、本来まともな装着ができるはずはないのですが、万やむを得ない場合は仕方がありません。非常な便法とお考え下さい。なお姿見(大きな鏡)は不可欠です。
(1)冠の装着の準備
冠を組み立て、掛緒(紙捻)を掛けて結び切りにします。そして冠を前にずらし、掛緒を顎からはずします。後でかぶるときは、逆にまず冠を額の方に乗せ、掛緒を顎に掛けてから冠を後ろに動かして頭上に乗せます。
(2)単の衣紋襞は作っておく
衣紋襞を一人で作ることは事実上無理ですので、あらかじめ位置を定めて赤いしつけ糸で仮留めしておきます。
(3)単の着方と指貫の結び方
衣紋襞ができている単は羽織るだけです。合わせ目を左手で押さえて、右手で指貫の前を持ち上げて単を押さえます。片手で押さえつつ紐を左右の手に持ち替え、単を押さえながら後ろで交差させ前に回し、さらに後ろで結びます。この場合、本来は単の下に回るべき紐が単の上を回ることになってしまいますが、仕方のないことです。
次に後ろ紐ですが、前紐がきちんと結べていれば、特に難しくはありませんが、単独着装の場合はゆるみがちですので、特にきつく結ぶようにする心構えにしてください。
(4)袍の準備
単独で袍を着るのはとても難しいことです。そこでいくつかの便法を使います。単独で着装する場合の一番の問題点は「紐がどこに行ったか判らなくなる」ことで、その対策が必要なのです。
まず書類を挟む目玉クリップを2個、長さ50cm程度の紐で結んだ物を4つ作っておきます。クリップは錆びていないか注意して下さい。「くけ紐」の両端にこれを1本ずつ付けます。そして袖と連結させるのです。小紐も同様にします。これで「紐がどこに行ったか判らなくなる」ことはないでしょう。
さらに袖の内側への折り込みも事前にしておき、袍の色のしつけ糸で内側を仮留めしておきます。これで腕の動きが比較的楽になるでしょう。
(5)袍の着方
袍を羽織って袖を通したら、通常とは逆に小紐を結びます。仮留めの意味だとお考え下さい。前を合わせて「とんぼ」を掛けたら、自分で多めにたくり上げ、小紐で胸高にきつく結びます。このとき腹部で留めると必ず失敗します。単独着装ではどうしてもズレ下がりますので、乳の位置で結ぶつもりで丁度良いのです。
別の方法としては、裾を見ながらたくし上げたら指貫の中に挟み込んで、小紐できつく結び、くけ紐で結んでから小紐をはずして挟み込んだたくりあげ部分を抜くということもできます。
次に「くけ紐」を「はこえ」の下にあれがい、前に回して、たくり上げの下で交差させて後ろに回し、また交差させて前で諸鉤に結びます。この段階では、まだ裾がめちゃくちゃでしょうから、たくり上げをしながら指し貫の出方、上身・下身の縫い目の合わせなどを上から眺めおろしながら調節します。どうしても鏡で確認する必要があるでしょう。
つぎに「込み」ですが、これは非常に難しいのですが、定法にのっとって三角を作り、中央・右・左の順に巻き込んで、くけ紐に込んでおきます。中央の縫い目ラインをきちんとしておくことが肝要です。
最後に腰に手を回し、「はこえ」がきちんと垂れて格好良く整っているか確認します。ここも鏡が必要です。
袍と比べると余りにも簡単なので、あえて記載する必要がないほどです。 小袖・(場合によっては単)・指貫までは衣冠と全く同じです。 その上に狩衣を着ますが、これは羽織って袖を通し、前をたくり上げて「当帯」を後ろから 回して諸鉤で結ぶだけです。衣紋者は前でたくりあげ、それを本人に持ってもらいながら後ろ から当て帯を前に回し、結ぶことになります。 単独装着も容易で、その場合たくり上げた前は指貫の紐に挟んでおくと良いでしょう。たくり 上げて顎で押さえる神職さんもおいでのようですが、これは狩衣が汗で汚れたりして望ましく ありません。 一番簡単なのはたくり上げないで当て帯を結んでしまい、その後上部をつまんで引っ張り 上げて「たくり上げ」を作る方法です。左の図がそうです。この場合は袖は最後に通すように すると扱いが楽です。これでも十分格好は付きますが、鏡を見てたくりあげの様子を確認し、 不格好なところがないか確認して下さい。また、この方法は狩衣が傷むのが欠点です。 なお、蛇足ですがたくり上げは前のみです。後ろは垂れたままです。活動する場合はこの 後ろ身を内側に折り曲げて当帯の下に挟み込みます。これを「押折」と呼びます。押折は必ず 裾の左方から内側に折り上げるもので、右側から上げるのは凶事に限ります。いずれにせよ、 これは雨天や騎乗など通常以外の場合のみの方法です。 |
水干の着方には「上げ頸」と「垂り頸」があります。 上げ頸の場合の着方は基本的には狩衣とほとんど同じ方式です。ただ、首上を詰めるのに とんぼを使わず、前後から伸びた紐を諸鉤に結ぶだけです。たくり上げその他、狩衣と全く同じ です。 垂り頸には2種類の方式があります。古式によるものは襷掛けにするもので、後ろの紐を右肩 越しに前に出し、前紐は左脇から前に出して両者をたすき掛にして諸鉤に結ぶ方法です。装束 の種類のページで示したのがこの方式です。 一方、別の方式は後ろ紐を上に出さずに前に回し、内部で前紐と交差させて左右脇から前に 出し、諸鉤に結ぶ方式です。現在ではこちらが正式とされています。 垂り頸にして着る場合、上げ頸と同様に着てから、襟を内側に折り込みます。その後で紐を 結ぶことになります。 現在、水干を着用するのはほとんどが女子神職で、男子が着用するのは大祭の召具(諸役 従事の仕丁)などです。 |
こちらをご参照下さい。